なぜ世界は存在しないのか

マルクス・ガブリエル著、清水一浩訳、講談社選書メチエ

なぜ世界は存在しないのか (講談社選書メチエ)

 図書館で借りる。わかりあえない他者と生きる - a follower of Mammon などインタビュー物を読んでみて、マルクス・ガブリエルの著作を読んでみたいと思い、「哲学書としては異例の世界的なベストセラー」などとされていた本書を借りてみた。

 題名の通り、すべてを包括する世界が存在しないという、著者が説く「新しい実在論」について説明していく。正直言って、哲学の門外漢で、日ごろからあまり抽象的な思考をしていないことがたたり、話の流れはあまり理解できなかったというか、あまり頭に入って来なかった。ゆえに、理解として間違っているのかもしれないが、「世界」が存在しないというのは、本書でも例示されているように「最大の自然数」が存在しないのと同じように、すべてを包括するものというものは存在しえないということだという風に解釈した。

 前半では世界や存在することについて考察した後、世界は存在しないという認識にたって自然科学や宗教、芸術の意味などを考察していく。著者は「哲学界のロックスター」と呼ばれているようだが、そのゆえんは、論考を私たちの日常生活に即してとらえることができることにあるような気がする。例えば、科学については

 科学的世界像がうまくいかないのは、科学それ自体のせいではありません。科学を神格化するような非科学的な考えがよくないのです。こうなると科学は、同様に間違って理解された宗教に似た、疑わしいものになってしまいます。

として、科学は世界ではなく、特定の分野についてだけを明らかにするものだと強調する。そのうえで

世界は存在しないという洞察は、わたしたちが再び現実に近づくのを助け、私たちがほかならぬ人間であることを認識させてくれます。

と結ぶ。パンデミックを経験した時代には、特に響く至言だと思った。