気候変動の真実

ティーブン・E・クーニン著、三木俊哉訳、日経BP

気候変動の真実 科学は何を語り、何を語っていないか?

 図書館で借りる。オバマ政権の科学担当幹部を務めた米国の著名物理学者が、「気候危機」に疑義を呈した本としていっとき話題になったので、図書館で予約したら、借りられるまでにけっこう時間がかかった。

 構成としては第一部は「サイエンス」として、データを使いながら気候変動に対する人間の影響は少ないことや、各種報告書などでみられるようなサイクロンや異常降水が増えているといった説明を否定していく。第二部では「レスポンス」として、パリ協定に基づく温室効果ガスの排出削減では全然足りないとして、太陽放射管理などの地球工学の採用の検討を求め、適応策の重要性を説く。

 確かに気候モデルにおいて、実際の気候システムの特徴と合致させるためにパラメーターを「調整」していることは驚きだったし、現在みられるような地球の気温上昇は、ここまで二酸化炭素の排出が多くなかった過去にもみられたということはよく指摘されていることではある。しかし、例えば気温上昇については、人間活動の影響を否定することもできない(過去に同様の上昇があったからといって、現在も自然の影響による上昇であるとは確定できない)だろう。このあたりは著者による説明も乏しいが、著者もそう考えていない限り、人間による「レスポンス」の必要性が説明できないのではないかと思われる。

 そういう意味では、巷間言われている印象から受けるような極端な本ではなく、著者も「はじめに」で書いているように

 先入観を持たずに本書を読んでほしい。気候科学についてわかっていること、わかっていないことが公の場で真剣に議論されたことはほとんどない。(中略)気候やエネルギーに関して社会がもっと賢明な意思決定をするための、そして地球温暖化の科学をめぐる議論をもっと冷静なものにするための、これは重要な一歩になるだろう。

という趣旨であろう。ゆえに、読み終えてみて、「我が意を得たり」とばかりに気候危機の否定本としてとらえた巻末の「解説」には違和感を覚えた。また、「未確定」を意味する原題『Unsettled』を『気候変動の真実』という大袈裟な邦題に変えるというのは、本書で批判されているマスコミの在り方の典型のように感じた。