わかりあえない他者と生きる

マルクス・ガブリエル、大野和基インタビュー・編、月谷真紀訳、PHP新書

わかりあえない他者と生きる 差異と分断を乗り越える哲学 (PHP新書)

 図書館で借りる。ドイツの新進哲学者であるマルクス・ガブリエル氏のインタビューを起こした書籍の3冊目で、私が読むのは つながり過ぎた世界の先に - a follower of Mammon に続いて2冊目である。今回は題名からも分かる通り、また副題に「差異と分断を乗り越える哲学」とあるように、近年顕著になっている基本的な考え方による人々の分断をどう乗り越えるかについて考察している。また、2021年のインタビューとのことで、ロックダウンへの疑問などコロナ対策に多くが割かれている。

 氏の説く「新実在論」というような肝心な哲学的な部分はよく分からないが、その本質は対話の重視といったような、当たり前と言えば当たり前の姿勢である。そのうえで、そのような当たり前だと思われていることに、新たな視点というか、新たな光を当てるのが、氏の真骨頂と言え、それが『哲学界のロックスター』と言われるゆえんなのだろう。例えば、気候変動について

現在、人々は気候変動と戦うために科学の下に団結したり科学に従ったりすべきだと考えていますが、科学が気候変動を引き起こしたことが忘れられています。気候危機を引き起こしたのは科学なのですから、気候危機の解決に科学さえあればよいというのは間違いです。戦争を止めるためにもっと武器を持たなければと言うのと同じです。

と指摘し、こちらが見過ごしがちなことを気付かせてくれる。また、ドイツで起きた難民への拍手にも、相手を人間として考えていないとして、反対する姿勢を示していることについては、一時日本でもブームのようになった、コロナ禍で医療従事者をたたえて拍手したりする風習への違和感と重なった。

 全体として、今回もモノの見方を広げてくれる読書体験となったが、前作同様、インタビューという形式の問題だと思うが、氏の主張の根拠の部分がやはり物足りなく感じた。