気候安全保障

公益財団法人笹川平和財団海洋政策研究所編、阪口秀監修、東海教育研究所

気候安全保障

 図書館で借りる。気候変動への対応を安全保障の問題としてとらえる「気候安全保障」についての論文集的な本。本書の編者でもある笹川平和財団がちょっと前から研究に取り組んでいるらしい。

 本書にもある通り、地球の平均気温が1℃上昇するごとに世界中で殺人事件が6%増加すると予測する研究者もいるなど、気候変動による影響は環境そのものにとどまらず、人間そのものにも及ぶ。そのために安全保障的な観点での取り組みも必要であるという主張は受け入れやすいが、その定義や、具体的な戦略となるとなかなか難しい。本書でも、日米の安全保障戦略などで取り上げられている気候変動を減殺しようとする「環境安全保障」というような考え方について

 そのような意味での「環境安全保障」という概念はもちろん成り立つものであるが、それでは単なる環境保護と区別がつかなくなるおそれがあるだけでなく、「安全保障」概念の無意味な拡張に繋がりかねない。(中略)特に日本においては、「安全保障」における軍事力の意義・役割から目を背けるために「安全保障」概念をできるだけ広く捉えようとする傾向がなきにしもあらずであったから、「安全保障」という概念の使用法については今なお注意が必要である。

とされている。「安全保障」そのものの定義はともかくとして、そういう意味では、概念そのものが確立途上にあると言える。ましてや、その概念で具体的にどのような施策や戦略が取り得るかとなると、研究はこれからという感じがした。

 しかし、温室効果ガスの排出抑制など気候変動の防止策に偏りがちな地球温暖化本のなかでは、適応策を主眼にするのみならず、それを安全保障ととらえる視点は面白い。また、「自由で開かれたインド太平洋」構想や、中国の進出が著しい太平洋島しょ国の問題も詳述されており、太平洋の島国の国民にとっては稀有かつ有意義な一冊である。