クリティカル・パス

バックミンスター・フラー著、梶川泰司訳、白揚社

クリティカル・パス―宇宙船地球号のデザインサイエンス革命

 図書館で借りる。宇宙船地球号操縦マニュアル - a follower of Mammon のバックミュンスター・フラーの晩年の集大成的な著作で、訳書の本文だけで500ページを超す大著である。内容的にもなかなか難解で、1980年に原著が出版されたが、この訳書が出版されたのは1998年とのことである。

 フラー(及び人類)の歩みに始まり、大陸が切れず、歪みもないという「ダイマクション・マップ」や強度やエネルギー効率の面から理想的な構造体とされる「ジオデシックドーム」など、その業績のほとんどが網羅されている。12歳のときから「他人が自分を『見る』ように自分を見る」という「クロノファイル」なるもの(日記のようなもの)を付け続けていることや、32歳のときに自分を「モルモット」にしようと決意した話なども紹介され、分量的にも、内容的にも、年寄りの自分史的な匂いがしないでもない。しかし、そこは「現代のダヴィンチ」とも称されているたけに、「先見の明」というか「時代の先取り」(先に行きすぎている面も多いが)と思われるところも随所にみられる。たとえば

 恐怖によってパニックになる二番目の理由は、地球上の一五〇の国家すべてが、進化によってまさに脱支配化されようとしているからである。(中略)自分たちの政府が倒産してまさに消滅しようとしている事態に気付いた何百万人ものアメリカ人が、たとえば「愛国」主義の活動家と化し、銃をもって、「古き良き時代」を復活させるために独裁を求めるナチ的運動を起こすかもしれない。

としていたり、ロスで問題になったスモッグの原因が巧妙に市民が運転している自動車の排気ガスとされて、工場の煤煙などから目をそらされていることを指摘している点など、40年以上前の著作とは思えない。

 その意味では、単なる環境問題のはしりとしてではなく、より広く「正義」とは何か、あるいは、もっと言えば、正義とどう向き合うべきかについて考えさせられる。分量的にも内容的にもかなりしんどいことは間違いなく、よほど興味がない限り手には取らないかもしれないが、時代の先駆者だったことは間違いなく、読んでみて損はない本である。