ひきこもれ

吉本隆明著、SB新書

ひきこもれ <新装版> ひとりの時間をもつということ (SB新書)

 図書館で借りる。「戦後思想界の巨人」とされる吉本隆明氏だが、私は氏の著作を読むような知識階級でもなく、これまで縁はなかった。しかし、コロナ下で仕事の在り方についてもいろいろ考えさせられ、在宅でずっと仕事をしていたいと思うようになり、「ひきこもれ」という主張に惹かれるものを感じた。裏表紙に「コロナ後の世界を生き抜く必読書」とあるこの<新装版>の狙い通りの新たな読者ということになるだろう。

 内容的にはその名の通り、ひきこもって1人でいる時間の大切さを説く。その観点から不登校やいじめについても語られ、不登校については

 それが偽物であろうと、一応の真面目さ、厳粛さのようなものが教室に漂っていさえすれば、教師は文句を言わない。生徒も「偽の厳粛さ」のために我慢する。我慢して我慢して、「学校というのはこういうものなんだ、仕方がないんだ」と諦めて過ぎていく。この「過ぎていく」ことに耐えられない子どもが不登校になるのです。

としていて、うなずける。

 ただ、吉本氏の著作というのはそんなものなのかもしれないが、全体として上から目線。冒頭、ひきこもりの社会復帰支援に取り組んでいるスーパーの元店長と、その様子を取り上げたテレビのニュースを批判している。それが「6チャンネルの筑紫哲也が司会した番組」だったことが「あとがき」で明かされ、批判の裏には「個人的な何か」があったのではないかとの疑念を抱いた。「巨人」の思想に触れるにあたっては客観性を求めるのは野暮なのかもしれない。難解とされる氏の著作の中では、本書は平易で、そういう意味では「ファンサービス」のような本なのであろう。