太平洋戦争への道 1931-1941

半藤一利加藤陽子保阪正康(編著)、NHK出版新書

太平洋戦争への道 1931-1941 (NHK出版新書 659, 659)

 図書館で借りる。言わずと知れた「昭和史」の専門家3人による、2017年に放送されたラジオ番組を再構成したという。題名にある通り、日米開戦の1941年までの10年間の日本の歩みを振り返り、破滅的な戦争に向かった理由などを考察している。

 基本的にこの10年間をさらにだいたい2年ごとに区切って章とし、それぞれ節目となった事件・事象を軸に鼎談形式で進む。各章の終わりには保阪正康氏の考察の文章が掲載される、という構成である。

 1931年の満州事変から始まる話の流れでは、この軍部の暴走から始まり、政党政治の無力化、統制の強化が進み、戦争へと不可避的に突入していく国の姿が浮き彫りになる。また、それぞれの理由の掘り下げについても、各論者の視点で試みられている。例えば、日中戦争の泥沼化については、蒋介石の次男の蒋緯国に言われたことを次のように紹介している。

 彼は、「日本の軍人には単純に言えば歴史観がないのだろう」と言う。なぜ中国と戦っているのか、なぜ中国に攻め入るのか、それを決めるのが歴史観だが、それが日本軍にはないのだろう。軍の論理でしか物事を考えないから、最後は軍事の限界にぶち当たって勝手に潰れていくのはわかっていたことだ――と言われたんです。

 これなどは、歴史についての考察だけではなく、特定の論理に縛られやすい会社組織などにも通用する教訓である。

 そういう意味では、巻末に3氏による「戦争までの歩みから、私たちが学ぶべき教訓」とする短文が掲載されているが、半藤一利氏は「日本人よ、しっかりと勉強しよう」と題した文を寄せているのが何とも象徴的である。

 復古主義者や歴史修正主義者は言うに及ばず、私たちの生きる社会そのものに、気づいてみたら戦争への道と同様の歩みがあるように思えないだろうか。まさに「教訓」とすべき流れをつかむための良書である。