WATER A BIOGRAPHY

Giulio Boccaletti著、Penguin Random House

Water: A Biography (English Edition)

 kindleで読了。nprのポッドキャスト「Book of the day」で紹介されていて、興味を持って購入。著者は英国の学者らしく、巻末の著者紹介によると、天然資源保障と環境持続可能性についての世界的に知られた英国の学者とのことである。

 題名の通り、水にまつわる年代記だが、主に人類史を水資源開発と水防の観点から振り返る。文明の始まりにおける灌漑などの利水と、その必要性から協働がもたらされる過程や、水利をめぐる国家間などの争い、防災や発電のためのダム建設など、主に人類と川とのかかわりについて年代を追って紹介していく。水の関与は多岐にわたり、例えば13世紀のモンゴル帝国のヨーロッパ侵攻が失敗に終わった理由について

 In the end, the European water landscape, rather than local defence, defeated the Mongols: the exceptional thawing of the spring of 1242 left behind swampy terrain, which made movement by horse difficult.

などと説明していて意外性がある。

 水と関連付けるにはややこじ付けと感じられない部分もなくはない。しかし、気象による小麦不足が「アラブの春」の遠因となったことを指摘するなど、全体として発見が多く、「水」という一つのキーワードに貫かれた世界史という視点は類を見ないものだと思う。全体的に駆け足ながら、最近の気候変動の問題(まさに水の問題である)もしっかり取り上げられていた。

 学者が書いた割には英語も比較的読みやすく、非常にいい読書体験となった。ぜひ類書を読んでみたいと思う。