AGENT SONYA

Ben Macintyre著 Penguin Random House

Agent Sonya: Moscow's Most Daring Wartime Spy (English Edition)

 kindleにて読了。ほぼ毎週聴いているNewyork Timesのbookreviewpodcastでの著者のインタビューで興味を持ち、購入した。アマゾンプライムビデオで「The Man In The High Castle」を観終わり、改めて戦時中とスパイに関心を持っていた。

 ドイツ出身のユダヤ共産主義者ソ連のスパイとなるUrsula Kuczynskiの伝記。Sonyaはそのコードネームである。ナチス台頭下のドイツでの生活から、上海・満州、スイス、イギリスでの主に通信技師としてスパイ活動がつづられている。上海では、後に日本で活動し検挙されるゾルゲ(イアン・フレミングが「最強のスパイ」と評している)と関係(息子によれば「生涯愛していた」とのこと)が描かれていて興味深い。圧巻は、英米の原爆開発計画の詳細をソ連に流し、米国の核独占を崩したことだろう。それらのことを3人の男と浮名を流し(夫となるのはそのうち2人)、最終的に3人の子育てをしながら、捕まることなく成し遂げたことには驚かされた。陳腐な言い方だが、史実とは思えない、小説か映画のような驚きの物語である。

 また、Sonyaに促されて自身もスパイとなる最初の夫がソ連の強制労働キャンプに長期収容されて手記を出版していることなど、サイドストーリーもなかなか。イギリスへ逃げ込んでからのMI5(その内部にもソ連のスパイやそうと疑われる者がいる)との駆け引きも時にコミカルに描かれる。また、最終的に東ドイツに「逃亡」を果たし、ベストセラー作家になったということも考えさせられた。著者も書いている通り、フレミングら元スパイの作家は多く、物語づくりとスパイ活動は親和性があるのだろう。自伝や自伝的小説によって、その活動の多くが記録されていたことも本書の詳細な描写に寄与したようだ。

 スパイ活動の露見による検挙だけでなく、スターリンの粛清などによっても多くの「同志」が命を落とす中でも天寿を全うすることができたのは、著者によれば「誰も彼女を裏切らなかった」からだという。残念ながらそのキモの部分の手練の詳細は明らかになっていないが、運だけではなく、生き残る方法論のようなものも恐らくあったのだろう。ただ、一方で、本書の出版直前に亡くなった長男が、自ら3回離婚しており、「誰も本当には信用できなかったのだと思う」と明かしており、重い印象を残した。

 興味深く、かなりのスピードに読み進められた。著者は他にもスパイものを出しているようなので、いずれ読んでみたいと思う。