黄金を抱いて翔べ

高村薫著、新潮文庫

高村薫のデビュー作で日本推理サスペンス大賞受賞作。ストーリー展開や人物造形に多少粗さが目立つものの、その後の高村作品(特にスパイもの)の流れを示唆する内容になっている。
マークスの山」から高村作品に入り、ほとんどの作品を読み尽くした。ただし、文庫のみ。この人は単行本を文庫化する際に、大幅に作品を修正・加筆するらしい。それ自体は悪いことではないと思うが、単行本の発売から文庫化されるまでのタイムラグが長い。修正・加筆がその原因なのかどうかは不明だが、これは私のような「文庫リーダー」にはつらいところ。「合田3部作」に関していえば、「レディー・ジョーカー」を早く読みたいが、2作目の「照柿」が文庫化されて間がなく、いつになることやら。また、新境地を開いたと言われている「晴子情歌」や「新リア王」となると、のんびり待つしかない。でもこのアクの強い文体には、たまに無性にほしくなる中毒性みたいなものがある。そこで、こうして遡って作品をあさることになっている。

それと、高村作品では、男同士の友情がホモセクシャルな関係に発展することが多いが、特に男性読者にとっては最も違和感をもつ部分ではないだろうか。ある意味で「男」というものの見方がワンパターンであるとも言える。ゆえに「晴子情歌」などでその辺に変化があるかどうかを確かめてみたいと思っているのだが…。