子どもを信じること

田中茂樹著、大隅書房

子どもを信じること

 図書館で借りる。医師・臨床心理士による子育て本。仕事でのカウンセリングや4人の息子がいる自身の子育て体験を踏まえ、子どもの力を信じて見守る育児を説く。

 不登校児を含め、叱らず、小言を言わずというような優しい子育て論で、それ自体は今やさほど珍しくないが、ケーススタディ的に随所で取り上げられる「例」が豊富で、それに対する指摘が身につまされるというか、耳に痛いことも多い。例えば、夕食の準備をしてくれた娘をほめたうえで「あとは片付けもできたら文句なしよ」と言った母親を例に

 子どもにしてみたら、せっかく良い成績をとったり手伝いを頑張ったりしたのに、親が余計なことを言ったことで間違いなく気分を悪くするでしょう。

 (中略)(親は)子どもが自立につながることを達成して自分から離れていく、その淋しさを打ち消すように「あなたにはまだ足りないことがある」と声に出して確認してまっているのです。

と指摘している。また、子どもの阻喪を謝らずに子どもを叱るだけの親の例など、身に覚えがあることが次々と出てくる。

 月並みだが、現実問題としては、おそらく子育てには正解はないのだろう。例えば、本書でも食べ散らかしたものを親が黙って片付けることが推奨されている一方、成人した子どもの世話を焼く親は批判されている。どちらでもない私としては、両者にたいした違いはないように感じる(著者は子どもは自然と片付けをやるようになると言うが、必ずしもそうとは言い切れないような気がする)。

 ただ、それでも、参考になるというか、反省を促される点が満載で、私個人としては、もう少し早く、子どもがまだ小さかったころに出会いたかった本である。