科学とはなにか

佐倉統著、講談社BLUE BACKS

科学とはなにか 新しい科学論、いま必要な三つの視点 (ブルーバックス)

 図書館で借りる。科学と社会の接点を探る、いわばジャーナリストに近い研究をしている科学者(本人は「科学者ではない」としているが)による本。「はじめに」で

 専門家だけの見方でもダメ。素人だけの評価でもダメ。いったい、ぼくたちはどうすればよいのだろうか? この本は、この両極端ではない第三の道を進むための、ガイドブックを目指したものである。

としている。地球が公転していることを認識しつつ「日が沈む」との表現を使うなど天動説と地動説を日常的に使い分けていることなどを紹介しつつ、専門家主義オンリーでも素人目線オンリーでもなく(著者はそれを「尊大な専門家主義と傲慢な反知性主義の、両方に戦いを挑む二正面作戦」と呼んでいる)、科学の多様性を認識してそれを「飼いならす」ことの必要性を訴える。そのうえで、科学思想史を概説し、民間科学などの取り組みも紹介。昨年執筆されたようで、話題は新型コロナウイルスパンデミックにも及んでいる。

 コロナ下のこの1年、確かに私たちは感染経路や予防策、流行の実態など「専門家」の意見に振り回され続けてきた。政府の見解に流されているように見える政治性にも疑いの目が向けられているようにも思えるし、そもそも流行の拡大と縮小という現象に、対症療法的に合わせているだけではないかとの疑念も持っている。そういう意味では、本書にも取り上げられている東日本大震災と福島第1原発事故(くしくも今年10年の「節目」を迎えた)やSTAP細胞事件を経て、帯にあるような「私たちは科学技術とどう付き合えばいいのか?」ということが改めて問われている。終盤、学生の少なさなど「ありきたり」な形で論が進むきらいもなくはないし、具体的な処方箋が示されているとまでは言い切れないが、その方法を考えるきっかけにはなる良書である。

 来年大学受験で、理系に進むことを目指している息子にも勧めたいと思った。