命の経済

ジャック・アタリ著、プレジデント社

命の経済――パンデミック後、新しい世界が始まる

 図書館で借りて読了。フランスの著名経済学者による、新型コロナウイルスパンデミック下の世界を分析した書。7月現在の状況を中心にまとめ、8月には邦訳が出版されたようなので、緊急出版の部類に入るのだろう。

 テレワークの浸透をはじめとする今回の疫病に端を発した世界の変化については、今春以降、世界のさまざまな知性によって発信が続いており、本書の記述もさほど目新しさはない。むしろ、前半のパンデミックの状況紹介は各国の感染者数や取り組みの羅列が多い。また、いわゆる「第一波」のデータのため、「第三波」に襲われている現状からすると既にいささか古臭く(かつ矮小に)さえ感じられ、読み進めるのに苦労した。「命の経済」についても要はエッセンシャルワーカーとされる医療関係への手厚い保護や環境問題など世界規模の課題への取り組みを促しており、ほとんどが承知のことであった。

 それでも、今(あるいは将来)の世界の、あるいは日本の状況を考えるにあたっては、思考の整理のためにも有効な読書であったと思う。例えば

 そして消耗した民主主義は、社会がこれまで以上にあっけなく独裁者になびくことを容認するのではないだろうか。そうなれば、監視の必要性が叫ばれ、そのためのあらゆる法律が制定される。そのような社会では、どのメディアも真実を語ることより、噂を流すことに関心をもつだろう。そしてメディアは、彼ら自身が台頭を後押しする独裁者によって、言論の自由を奪われることになるだろう。

 との独裁制についての論考などは常に念頭に置いておかなければらないことであろう。

 また、SFの小説や映画、さらにはゲーム(ゲーム内でパンデミックが制御不能になってリセットされたものもあるらしい)から学ぶべきことが多いとする視点も、高名な学者の意見として、なかなか新鮮であった。