カラマーゾフの兄弟2

ドストエフスキー著、亀山郁夫訳、光文社古典新訳文庫
カラマーゾフの兄弟2 (光文社古典新訳文庫)
この第2巻、つまり小説の第2部は1巻と比べてダイナミックな展開は少ない。その代わり、次男イワンによる「大審問官」と三男アリョーシャがまとめたとされるゾシマ長老の一代記という二つの重要なメタファーが描かれている。それぞれ、内部にさらにメタファーを内包しているうえ、テーマが「神の存在、不存在」を巡る宗教的な議論で、非常に疲労する。
にもかかわらず、最も印象に残ったのはやっぱり女性の逸話である。「知的な美人」とされるカテリーナが長男ドミートリーへの思いを(無理して)語る場面。

…そうよ、何がどうあっても、もう絶対に許せないあの女と結婚しても、やっぱりあの人を見捨てない! 今日のこの日から、何がどうあっても、わたし、あの人をぜったいに見捨てない!」どことなく無理じいされた感じの、発作的で血の気のない歓びにかられて彼女はそう口走った。

作者がそれを意図したかどうかはともかくとして、思い込みの激しいたちの悪い女、間違いに気付いた時には手のひらを返したように逆方向に大きくぶれる恐ろしい女の描写としては、背筋が寒くなるくらい秀逸。結局、私は「女好き」なのか。そういう内省的な気分にさせる小説なのは確かだ。