月島慕情

浅田次郎著、文春文庫
月島慕情 (文春文庫)
市井の人々の生活を描いた「人情もの」の短編集。大正時代の吉原についての表題作あたりは、多少型にはまった感がなくもないが、名手の作品らしく、やはり圧巻だった。巻末に作者自らがそれぞれの創作秘話を語る「自作解説」が収録されているのもいい。戦争を経験した陸上自衛隊師団長の語りについての「雪鰻」では、戦争を題材にする理由を次のように語っている。

つまりその方(戦争経験者)たちからお話をきちんと聞ける間に、できるだけのことをお聞きして、そしてできるだけ小説家という責任において、きちんとした物語にして残しておくというのが、私のできる務めだと思っておりますので、できる限り、ちょっとずつ正確に書いていきたいというふうに思っています。