DOWNTOWN My Manhattan

Pete Hamill著、Back Bay Books
Downtown
ピート・ハミル氏が生まれ育ったマンハッタンについてのエッセイ。日々の雑観だけでなく、マンハッタン島への入植から始まる歴史を地域ごとに紹介している。ジャーナリストらしく、批判的な精神も示されているが、全編を通じて「ニューヨーク愛」がにじみ出ている。
日本語では「人種のるつぼ」という言葉で評されることが多いアメリカだが、ハミルはこれを「alloy」と呼んでいる。辞書でひくと「合金」とかそういう意味のようだが、様々な国から入植者や奴隷としてやってきた人たちが溶け合い「より強いもの」に変わっていった街にはまさに的を射た言葉だと思う。
話題は街そのものにとどまらない。例えばかつてニューヨークにあった新聞「Herald」に関するくだり。

The readers didn't care about his inconsistencies; they kept reading.

やがて悪名高い「イエロー・ジャーナリズム」につながる萌芽を端的に言い表している。
また、マフィアについての文章に出てくる、ある刑事のセリフ。

The biggest killer in New York? It's not drugs. It's not robbery. It's not greed. It's jealousy.

まさに生きたニューヨーク。私は根無し草のようにいろんな土地を漂う人生を送ってきて、それにある程度満足もしていたが、このように一つ所にとどまるのも悪くない気がする。それがあのニューヨークであればなおさらである。