カラマーゾフの兄弟1

ドストエフスキー著、亀山郁夫訳、光文社古典新訳文庫
カラマーゾフの兄弟1 (光文社古典新訳文庫)
ロシア文学の名作の東京外大学長による新訳。ちょっとしたブームになっている新訳シリーズの中でも売れ筋となっている。ちくま文庫の「失われた時を求めて」以来の外国文学の「長編」に取り組むことになり、1巻ずつブログに感想を書くことにした。なにしろ、「失われた時を求めて」の時は全部読み終えるのに1年ぐらいかかった。
例によっては過去の翻訳や原書は読んでいないので、新訳でどう変わったかは分からない。「読みやすくなった」と評判になっているが、それでも当初は読み進めるのに苦労した。これが今の日本でベストセラーリストに入っているのはにわかには信じがたい。濃密な物語で、この第1巻のうちに物語の中で進む時間はたったの1日である。
宗教、しかも特になじみの薄い「ロシア正教」絡みのやり取りなどが続くことが、苦労の最大要因だと思う。それでも、人間考察はさすがで、最後の方に出てくる女性2人のやり取りは圧巻。
相当な性悪女として描かれているグルーシェニカは

わたしって、何かこうしたくなるとそのとおりにしなければ気がすまないたちなんです。さっきあなたになにか約束をしたかもしれませんが、今またあのドミートリーさんを好きになりそう、なあんて考えているしまつですからね…

じゃあ、わたし、さっそくミーチャに伝えてあげますわ。あなたはわたしの手にキスしたけど、わたしは全然しなかったって。それを聞いたらあの人、どんなに笑うかしら!

などと言う。
主人公・アリョーシャの彼女の第一印象である

 しかしそれでいて、押しだしのいい豊満な体つきだった。ショールの下には、幅のあるゆたかな肩や、高く盛りあがったまだまったく若々しい乳房をうかがうことができるようだった。

との描写と相まって味わい深い。一見、しおらしそうで男好きのする美女の本性。これを若いころに読んでいたら、いくつかの失敗が避けられたかもしれない。そういう意味では男性向けの作品なのだろう。