官邸崩壊 安倍政権迷走の一年

上杉隆著、新潮社
官邸崩壊 安倍政権迷走の一年
昨年9月の安倍政権発足からの一年間を描いた「内幕ドキュメント」。私は「政治モノ」はあまり読まないが、メディアだけでなく友人たちの間でも評判になっていることもあって、購入してみた。自民党参院選での大敗が印象的だったこともある。明らかにこの本は賞味期限がありそうだったので、他の本よりも優先して読んだ。
1年間を淡々と振り返った語り口はオーソドックスである。「内幕」としてちりばめられた挿話もそんなに大きく驚かされるようなものはない。これまで各種メディアで報道されてきたことを1冊にまとめた、と評すこともできなくもない。それでも面白く読めるのは、大敗した参院選の直後という出版のタイミングもさることながら、安倍首相が辞任しなかったことが大きい。もし、参院選の責任を取って安倍が退陣していたら、安倍もすでに「過去の人」となり、本書がこんなに話題を呼ぶことはなかったとみられる。そういう意味では批判している安倍の延命によって商業的には助けられているという皮肉な内容な本である。
ただ、実は内容的には安倍自身に対する批判はそんなに多くない。というか、ほとんど印象に残らないほどだ。帯にあるように

「チーム安倍」こそが戦犯だ!

という話なのである。参院選で国民が示した嫌悪感は安倍自身に対してのものであったのは自明だが、その点が掘り下げられていないような気がする。安倍と思想信条が近いと思われる保守系メディアの代表格たる新潮社の出版物であることと相まって、そこが気になる。内閣改造ですでに主立ったメンバーが去った「チーム安倍」にこれまでの責任をなすりつけることに手を貸していると取れないこともない。