サピエンス全史 上・下
ユヴァル・ノア・ハラリ著、柴田裕之訳、河出書房新社
イスラエルの歴史学者による言わずと知れたベストセラー。ちょうど読む物がなかった時に妻の蔵書に見つけ、読み始めた。
題名の通り、現生人類の歴史を紐解いた書だが、その分かりやすいまとめ方が多くの人に「目からうろこ」と言わしめたゆえんだろう。虚構をつくり出す能力が大勢での協力を可能にしたという「認知革命」に始まり、統一に向かう人類の発展の原動力として「貨幣」「帝国」「宗教」を挙げる。最終的に「科学革命」として資本主義やテクノロジーに焦点をあてて、サピエンス後を占うという仕掛けになている。
また、論の展開の過程で、著者ならではの、時としてユーモラスとも思える独自の視点が披瀝されているのも魅力である。例えば、農業革命によって、平均的な農耕民は狩猟採集時代よりも不幸になったとして、
では、それは誰の責任だったのか? 王のせいでもなければ、聖職者や商人のせいでもない。犯人は、小麦、稲、ジャガイモなどの、一握りの植物種だった。ホモ・サピエンスがそれらを栽培化したのではなく、逆にホモ・サピエンスがそれらに家畜化されたのだ。
と言い切る。このように、一見というか通説的には「進歩」とされる人類の歩みによって、人類の幸福は増大していないばかりか、逆に縮小さえしているとの視点は本書の随所で取り上げられている。それがこの人類史の縦軸の一つになっていると言っていいだろう。