日本史サイエンス

播田安弘著、講談社ブルーバックス

日本史サイエンス 蒙古襲来、秀吉の大返し、戦艦大和の謎に迫る (ブルーバックス)

 図書館で借りる。鎌倉時代の蒙古襲来、本能寺の変の後の秀吉の中国大返し戦艦大和をテーマに、日本史の「常識」を科学的に検証した著。著者は歴史学者ではなく、造船の専門家というところが異色で、「科学を身近に」をモットーとするブルーバックスに収録されているゆえんであろう。

 蒙古襲来と中国大返しについては、日本史の「奇跡」や「驚異」と言われていることがらについて、本当にそうだったのかを科学的に検証する。大和については、「時代遅れの巨艦主義」の権化とされている大和の実態を解き明かしていく。

 造船の専門家だけに、船の構造などの問題から蒙古軍の「強さ」に疑問を持ったり、大返しに船を使ったことを唱えたりと、着眼点は面白い。ただ、「実際はどうだったのか」という点については、歴史学者でない、というか歴史学者でも解き明かしていないことがらがテーマだからか、いささか説得力に欠く部分も多いと言わざるを得ない。

 しかし、本書の最大の見どころは、著者も「終章」で書いているように

 教科書にはたった1行しか記されないことにも、「重さ」はあるということです。具体的な物理量を知ることで、重紗和は実感されてきます。そして筆者は、そうしたリアリティを感じながら歴史を知ることが大事なのではないかと思うのです。 

と記すように、当時の船の作りや、必要とされる物量などを記すことによって、何となく知っている歴史が、より「ありえないこと」に思えるようになってくることではないかと思う。そのことによって、神話的に語られることの多い、日本史の「うさん臭さ」のようなものにも改めて気づかされた。

 特に大和の頁では、問題は大和の性能よりも、運用した人にある、ということに力点が置かれていて、印象深かった。